宇都宮地方裁判所 平成9年(行ウ)6号 判決 1998年5月14日
原告
久保髙良
外一八名
右原告ら訴訟代理人弁護士
浅野正富
同
石川浩三
同
米田軍平
同
田中徹歩
同
高橋信正
同
大木一俊
同
小林正憲
同
山口益弘
同
小野民樹子
被告
野木町長
金澤豊
右訴訟代理人弁護士
岩瀬勇
被告
金澤豊
右訴訟代理人弁護士
関内壮一郎
同
渡辺務
同
山本眞弓
主文
一 本件各訴えのうち平成五年度の固定資産税に関する違法確認請求及び損害賠償請求部分をいずれも却下する。
二 原告らのその余の訴えに係る各請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 被告野木町長が、大草良一に対し、別紙物件目録一記載の土地につき平成五年度の固定資産税の徴収を、別紙物件目録二記載の土地につき平成六年度ないし平成八年度の固定資産税の賦課及び徴収をいずれも怠ったことが違法であることを確認する。
二 被告金澤豊は、栃木県下都賀郡野木町に対し、六〇一万九九〇〇円及びこれに対する平成九年七月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、栃木県下都賀郡野木町(以下「野木町」という。)の住民である原告らが、同町長において、同町文化会館の用地として賃借した土地に関し、固定資産税の賦課及び徴収を怠っていると主張して、地方自治法二四二条の二第一項三号に基づき、右怠る事実の違法確認を求めるとともに、同項四号に基づき野木町に代位して、同町長個人に対して損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告らは、いずれも野木町の住民であり、被告金澤豊(以下「被告金澤」という。)は、昭和六二年五月一日から現在に至るまで、野木町長の職にある者である。
2 被告野木町長(以下「被告町長」という。)は、平成五年四月一日、大草良一(以下「大草」という。)との間で、別紙物件目録一記載の土地(以下「土地一」と略す。)を、野木町文化会館(野木町町民ホール)の用地とするため、賃料一平方メートル当たり月額五四円で賃借する旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。
被告町長は、同年一〇月一日、本件賃貸借契約を、土地一のうち道路敷地となった部分を除く別紙物件目録二記載の土地(土地二)についての賃貸借契約に変更し、さらに、平成八年五月二〇日には、土地二のうち道路敷地となった部分を除く別紙物件目録三記載の土地、(土地三)についての賃貸借契約に変更した。
3 被告町長は、大草に対し、土地一について平成五年度の固定資産税を徴収せず、土地二について平成六年度ないし平成八年度の固定資産税の賦課及び徴収をしなかった。
4 原告らは、平成九年三月一四日、野木町監査委員に対し、野木町長が前記固定資産税の賦課及び徴収を怠っている等と主張して、その是正及び損害の補填を求める監査請求を行った。これに対し、同監査委員は、同年五月一三日、原告らに対し、合議が不調となった旨を通知した。
二 争点
1 原告らの本件住民監査請求に、地方自治法二四二条第二項に定める期間制限が適用されるか否か。具体的には、怠る事実の前提となる財務会計行為の存否が問題となる。
2 前項の期間制限が適用される場合、地方自治法二四二条第二項ただし書きにいう正当な理由があるか否か。
3 前項の期間制限が適用されない場合、賦課及び徴収を怠ったことの違法性及びこれにより野木町に損害が生じたか否か。
三 被告らの主張(被告ら共通)
1 争点1について
(一) 被告町長は、平成五年四月一三日、土地一の所有者である大草の委任を受けた野木町教育委員会教育長から、同月九日付け「野木町町民ホール(仮称)用地借用に係る税制上の取り扱いについて(依頼)」と題する文書により、土地一について固定資産税の非課税化の依頼を受け、同月一五日、土地一の固定資産税を平成五年度より免除する旨の措置を取り、その結果を口頭で大草に通知した。
(二) 野木町税条例七二条一項には、地方税法三六七条に基づく減免について定めた規定(一号、三号及び四号)と、同法六条に基づく課税免除ないし不均一課税について定めた規定(二号及び四号)が混在する。そのうち、課税免除については、その性質上、申請を前提とするものではないから、右条例七二条二項の適用はない。
前項の免除は、右条例七二条二項に基づいて、大草が野木町教育委員会を通じて申請し、これに基づいて被告町長が形式上「免除」と決定したのであるが、実質的には「課税免除」(非課税)であり、申請も不要な場合であった。
(三) 原告らは、被告町長が固定資産税の賦課及び徴収をしなかったことを「怠る事実」として主張するが、これらは、前項の免除に基づくものであって、右免除という財務会計行為の違法性を問題にすべきである。
「怠る事実」の前提となる財務会計行為が存在する場合には、「怠る事実」についての監査請求にも地方自治法二四二条第二項に定める期間制限が適用され、右期間の起算点は、前提となる財務会計行為の時となる。
したがって、原告らの本件監査請求が、前項の免除のあった日から一年を経過した後にされ、前述の期間制限を徒過している以上、本件請求は不適法である。
2 争点2について
(一) 本件賃貸借契約に先立つ平成五年三月の野木町議会において、野木町企画財政課長が議員の質問に対し、土地一に対する固定資産税について減免を行う予定であることを答弁した。
平成六年三月の野木町議会における平成六年度予算審議において、平成六年度については、平成五年度と異なり、町民ホールに関する土地賃借料の予算として、固定資産税相当分を含まない純賃料に相当する金額のみを計上したが、これは原案どおり可決された。
平成六年九月の野木町議会における平成五年度決算審議において、平成五年度決算に、町民ホールに関する土地賃借料の支出済額として、固定資産税相当分を含まない純賃料に相当する金額のみを計上し、前述の免除により不用となった固定資産税相当分を不用額の一部として計上したが、これは原案どおり認定された。
(二) 野木町議会は、住民の代表である議員で構成され、かつ、本会議は公開されており、本会議議事録も閲覧可能である。
したがって、被告町長は、免除を秘密裡に行ったものではなく、原告らは、相当の注意力をもって調査すれば、遅くとも平成六年九月ころには右免除の存在を知ることができたのであるから、地方自治法二四二条二項ただし書きの正当な理由は存在しない。
3 争点3について
被告町長は、本件賃貸借契約の賃料について、大草との間で、固定資産税を含めない純賃料として一平方メートル当たり月額五四円と合意し、その代わり固定資産税を賦課しないとしただけであって、これに基づいて免除ないし非課税の措置を取ったのであるから、右措置が違法でないのは勿論、右措置により、野木町には何らの損害も発生しない。
四 原告らの主張
1 争点1について
野木町税条例七二条は、固定資産税の減免に関する規定であり、課税免除を定めた規定でないことは、同条二項において、納税義務者からの申請を要求していることから明らかであり、ほかに課税免除に関して定めた規定は存在しない。したがって、被告町長が、平成五年四月一五日、土地一の固定資産税を平成五年度より免除する旨の措置を取ったとしても、条例に定めがない以上、課税免除ではあり得ない。
右免除は、平成五年度については、大草からの減免の申請及び大草に対する減免の書面による通知をいずれも欠いていること、平成六年度ないし平成八年度については、減免の前提となる賦課自体が存在しないことから、いずれも右条例七二条に基づく減免がされたと解することはできず、減免という行政処分が存在したということはできない。
よって、右免除は、あくまで固定資産税を徴収しないことにしたという行政内部の措置にすぎず、賦課及び徴収を怠ったことの前提たる財務会計行為にはなり得ないから、本件監査請求は、地方自治法二四二条第二項に定める期間制限に服することはない。
2 争点2について
土地一の賃借料の具体的な内訳については、町議会で審議されたこともなく、被告ら主張の予算書、決算書にも記載がないから、原告らは、いかなる注意をもってしても、平成六年三月及び同年九月の町議会の傍聴、議事録閲覧、予算書や決算書の閲覧によって、土地一の固定資産税が事実上免除されていたことを知ることは不可能であり、地方自治法二四二条二項だたし書きの正当な理由が存在する。
3 争点3について
(一) 被告町長は、野木町税条例に課税免除についての根拠規定がない以上、課税免除をすることはできず、右条例五四条、六〇条に基づいて固定資産税を賦課しなければならないのであるから、これを怠れば違法である。
また、賦課がなければ、右条例七二条に基づく減免もなし得ないし、同条二項に定める減免の申請及び減免の書面による通知も欠いているのであるから、同条に基づく減免がされたと解することもできない。
それにもかかわらず、被告町長は、免除があったとして、故意に地方税法、右条例等に反して土地一につき平成五年度の固定資産税の徴収を、土地二につき平成六年度ないし平成八年度の固定資産税の賦課及び徴収を、それぞれ怠った。
(二) 野木町は、右賦課及び徴収の懈怠により、固定資産税として徴収すべき金額相当額につき、平成五年度ないし平成八年度の歳入が不足し、損害を被った。右固定資産税は、平成五年度が一万九九〇〇円であり、平成六年度ないし平成八年度は、現況地目が宅地に変更されたため、各年度二〇〇万円を下らず、損害額は合計六〇一万九九〇〇円を下らない。
(三) したがって、野木町は、被告金澤に対し、右損害額合計六〇一万九九〇〇円について損害賠償請求権を有する。
第三 当裁判所の判断
一 地方自治法二四二条一項は、地方公共団体の執行機関又は職員の財務会計行為又は怠る事実について、それらが違法な場合のみならず不当な場合にも広く住民に監査請求を可能ならしめ、もって地方公共団体の財務の適正に資することとしたものであるが、一方で、住民がその個人の権利義務にかかわりなく単に住民であるというだけの資格で、いつまでも財務会計行為等の効力や担当職員の責任を争い得る状態にしておくことは、法的安定性を損なうおそれがあり好ましくないことから、住民による監査請求の期間を限定することとし、同条二項において、これを当該行為のあった日又は終わった日から一年間としたものである。
右条項の文言からすれば、監査請求期間の制限は、違法又は不当な財務会計行為の是正を求める場合についてのみ妥当し、怠る事実については右期間の制限を受けないと解すべきである。
もっとも、怠る事実の中には、財務会計行為に基づいて発生した請求権についてその管理を怠る場合のように、怠る事実の前提として具体的な財務会計行為が存在し、怠る事実の存否を決する前提として必然的にその財務会計行為の違法の有無を問題とせざるを得ない場合がある。その場合に、財務会計行為を基準とすればすでに監査請求期間が徒過し、監査請求ができなくなっているにもかかわらず、右行為に基づいて生ずる請求権の不行使をもって怠る事実と捉えて監査請求をすればいつまでも争い得るとしたのでは、法的安定性の見地から監査請求期間に制限を設けた法の趣旨が没却されることとなる。したがって、右の場合には、怠る事実についての監査請求であっても、前提たる財務会計行為を基準として期間制限を適用するのが相当である。
二 そこで、本件についてみるに、第二の一記載の事実に加え、証拠(甲第二号証、乙第一及び第二号証の各一、二、第三号証、第七号証の一、第八号証、証人舘野本嗣、証人大草良一)によれば、以下の事実が認められる。
1 大草は、本件賃貸借契約締結に至る交渉の過程で、野木町教育委員会社会教育課の担当者から、土地一の固定資産税については免除する方法を採るとの説明を受け、これを了承した。
2 野木町教育委員会教育長は、右大草の了承に基づき、平成五年四月九日付けで、被告町長に宛て、「野木町町民ホール(仮称)用地借用に係る税制上の取り扱いについて(依頼)」と題する依頼文書を作成し、右文書は同月一三日に受け付けられた。
右依頼を受けて、税務課資産税係主査が、平成五年度から固定資産税を免除することについて伺いを作成し、平成五年四月一五日、被告町長から決裁を受け、同人が教育長に宛てた「野木町町民ホール(仮称)用地借用に係る税制上の取り扱いについて(回答)」と題する文書において、「平成五年度固定資産税課税分より免除する。」旨の回答がなされた。
3 税務課職員であった舘野本嗣は、平成五年四月下旬、大草に対し、土地一の固定資産税の免除が正式に決定されたことを口頭で告知した。
4 野木町は、平成五年度については、一旦賦課された固定資産税の税額の更正を行い、平成六年度ないし平成八年度については、初めから課税しない処理を行った。
三1 地方税法は、三条一項において地方団体が地方税の賦課徴収について定めをするには条例によらなければならないと定めた上、六条一項において地方団体が公益上その他の事由により課税を不適当とする場合に、その判断によって課税をしないことができる旨を定めている(課税免除)。この課税免除を行うことは、地方団体が地方税の賦課徴収について独自の定めをすることにほかならないので、条例の定めが必要であると解される。
また、同法は、三四八条において一定の範囲のものについて固定資産税を非課税とすることを、三六七条において条例の定めに基づいて一旦発生した固定資産税の全部又は一部を放棄する減免について定めている。
2 そこで、被告町長がした免除の法的性質について検討する。
被告町長の免除は、一括して平成五年度より固定資産税を免除することとしているが、平成五年度については、すでに賦課されていたのであるから、一旦発生し、確定した具体的租税債権を放棄する意味の免除でしかあり得ないのに対し、平成六年度以降は、賦課もしないこととしたのであるから、平成五年度と平成六年度以降については、異なる性質の免除がされたものと解さざるを得ない。すなわち、平成五年度については、地方税法三六七条に基づく免除がされ、平成六年度以降については、同法六条一項に基づく課税免除がされたというべきである。
ただし、野木町においては、実際のところ、課税免除も減免も、その区別を認識することなく、税金を徴収しないという程度の認識で徴税事務処理が行われてきたことは、証人舘野本嗣の証言するところである。
四 そこで、平成五年度の免除について検討するに、原告らも野木町税条例七二条が減免について定めていることは争っておらず、前記認定の免除前後の経緯に照らしても、被告町長の免除が単なる行政内部の措置にとどまるものと解することはできない。
してみると、右免除は、一旦発生し、確定した具体的租税債権という地方公共団体の「財産」を放棄することで「処方」したものというべきであるから、地方自治法二四二条にいう財務会計行為に該当する。
なるほど原告ら主張の徴収を怠る事実は、右免除自体から直接に発生する請求権について管理の懈怠を問題としている訳ではないが、すでに具体的租税債権が発生している状況において、右免除が違法無効である場合には、右債権が存続することになるから、怠る事実の存否はすべからく前提となっている免除という財務会計行為の違法の有無に帰着し、その意味で右免除から直接に発生する請求権の管理の懈怠の場合と何ら異なるところはなく、いずれの場合においても、もともと前提として存在する財務会計行為たる免除を争うことが可能であり、また、それにより目的を達することができるものである。
したがって、第三の一で述べた趣旨に照らせば、本件の場合においても、前提たる財務会計行為の免除を基準として期間制限を適用するのが相当であり、前記認定の事実からすれば、本件の監査請求が監査請求期間を徒過していることは明白である。
五 では、本件の監査請求が監査請求期間を徒過したことにつき、地方自治法二四二条二項ただし書きの「正当な理由」があるであろうか。
監査請求に期間制限を設けた趣旨は第三の一で述べたとおりであるところ、当該財務会計行為の存在及び内容が地方公共団体の住民に秘匿され、一年を経過してから初めて明らかになったような場合等にまで、右趣旨を貫くのが妥当でないことは明らかである。
したがって、当該財務会計行為の存在及び内容が地方公共団体の住民に秘匿されていたような場合には、同項ただし書きの「正当な理由」の有無は、特段の事情がない限り、地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該財務会計行為の存在及び内容を知ることができたかどうか、また、当該財務会計行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から監査請求をするために必要とされる相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断されるべきものである。
六 証拠(乙第五及び第一〇号証の各一、二)によれば、以下の事実が認められる。
1 平成五年第二回野木町議会定例会において、本件賃貸借契約締結前である同年三月一〇日に、企画財政課長が、平成五年度一般会計予算のうち町民ホールについての説明欄の「土地賃借料等」という記載の「等」に何を含むかについての質問に答えて、野木町は、土地一に関し、一平方メートル当たり月額五四円の賃料の他に固定資産税相当分の一万九九〇〇円を支出すること、固定資産税相当分は、一旦町から賃貸人に支払い、同人から野木町に支払ってもらうことで話を進めてきたが、税を減免することを検討中であることを説明した。
2 平成六年第一回野木町議会定例会において、同年三月一七日に可決された平成六年度一般会計予算のうち町民ホールについての説明欄には、平成五年度と異なり「土地賃借料」とのみ記載され、固定資産税相当額の支出を表す「等」の記載はなかった。
七 前記認定の事実に照らせば、野木町において、免除の存在及び内容が秘匿されたような事情は全く窺われない。
免除に先立って、免除の可能性を示唆する発言が議会でされていることに加えて、平成六年度一般会計予算では固定資産税相当額の支出が計上されていないことを併せ考えれば、住民にとっても、その間に免除がされたことは容易に推察し得るのであり、住民が相当の注意力をもって調査したときには、遅くとも平成六年三月には免除の存在及び内容を知ることができたというべきであるが、本件監査請求は、平成九年三月一四日までなされなかったのであるから、監査請求期間徒過について正当な理由があるということはできない。
よって、本件各訴えのうち平成五年度の固定資産税に関する違法確認請求及び損害賠償請求部分は、適法な監査請求を経たものといえないから、原告らの右訴え部分は不適法であり、いずれも却下を免れない。
八1 平成六年度ないし平成八年度の課税免除は、そもそも賦課しないこととしたものであるから、地方公共団体の「財産」といい得る具体的租税債権が成立しておらず、地方自治法二四二条一項に定める財務会計行為には該当しないこととなり、賦課及び徴収の懈怠は、怠る事実としてのみ争い得ることになる。
したがって、監査請求期間の適用はないことが明らかである。
2 そこで、賦課及び徴収を怠ったことの違法性を検討するに、本件の課税免除が違法無効である場合には、課税要件を充足する限りにおいて当然に固定資産税債権が成立するのであるから、被告町長はこれを賦課すべき義務を負い、相当の期間賦課しないときは、違法に公金の賦課を怠っていることになる。
したがって、本件課税免除の違法性を考えると、まず、右課税免除について条例上の根拠が存するかが問題となる。
野木町税条例は、税金の免除に関する条項としては、七二条を有するのみであり、地方税法の定める課税免除と税の減免の区分に応じたきめ細かな定めはなされていない。
そして、同条一項は、「町長において必要があると認めるものについては、その所有者に対して課する固定資産税を減免する。」と規定しているので、その文言に着目するなら、地方税法三六七条の「減免」のみを定めた規定のようにも読みとれる。
しかしながら、右条例七二条一項で減免の対象として掲げるもののうち、一号及び三号は、地方税法三六七条の例示と同様に貧困、災害といった個別的な担税力に着目した規定であるが、二号はむしろ公益性の観点から設けられた規定となっている。さらに、四号に至っては、広く特別な事由があると町長が認めた固定資産に関して免除の道を開いている。してみると、右条例七二条一項は、固定資産の所有者に税を支払わせることが妥当でない何らかの理由が存する場合に、町長の判断によって固定資産税の全部又は一部の支払を免除することを可能ならしめた包括的な定めをしたものと解するのが相当である。
その場合に、町の徴税事務処理として、一号や三号のように各年度毎に事情が異なり、しかも免除自体が恩恵的である場合には、一旦賦課したうえで、各年度毎の審査を経て免除することが適していようが、永続的に公益のために拠出してもらった固定資産について免除する等の場合には、必ずしも各年度毎の審査を要せず、しかも複数年度にわたって課税しないことが予め明らかであるのに、わざわざ課税してから毎年度これを減免するというのも余りに迂遠であり、かえって賦課しない扱いをした方が徴税事務処理として合理的であることは明らかである。
このように性質の異なる免除をすべて規定しているにもかかわらず、右条例七二条が、その方法として常に賦課処分を経る減免のみを認め、賦課自体を行わない課税免除を排除した趣旨と解することは、硬直にすぎ、相当でない。勿論、地方税法に定める減免と課税免除の区別を、条項を分けて別に定める等して明確化することが、条例の規定として望ましいことはいうまでもないが、現にある条例の解釈としては、右条例七二条には、二号や四号のように性質に応じて課税免除の方法による免除を許す余地を残していると解さざるを得ない。
なお、課税免除について、地方団体が条例の定めで、申請を要件とすることも許されるのであるから、右七二条二項を根拠として、同条が課税免除を排除したものと解することはできない。また、納期限前七日までに申請書を提出すべき旨を定めている点については、課税免除の場合は未だ賦課がない以上、納期限が想定されないのであるから右期限の定めを適用する余地がないことになる。
3 したがって、本件の課税免除は、野木町税条例七二条一項四号を根拠としてされたものと解され、特別の事由があるとした被告町長の判断に裁量権の逸脱がない限り、違法の問題は生じないというべきである。
ちなみに、被告町長は、本件賃貸借契約に先立って、不動産鑑定士古川一正に対し、土地一の適正地代の鑑定を依頼したところ、同人は、平成五年一月一九日付の意見書において、固定資産税を含む適正地代は一平方メートル当たり月額66.7円程度、固定資産税を含まない純賃料では一平方メートル当たり月額60.1円程度との鑑定意見を述べており(乙第四号証の一、二)、本件賃貸借契約における地代が、右の固定資産税を含まない純賃料よりも更に年に約一〇〇万円は低い一平方メートル当たり月額五四円に設定されていることに鑑みれば、賃料額を根拠として、被告町長に裁量権の逸脱があったということはできず、他に、本件全証拠によるも、被告町長による裁量権の逸脱があったことを窺わせる証拠はない。
原告らは、本件の課税免除について、同条二項の申請及び書面による通知を欠いていることも違法事由として主張するが、前記認定のとおり、納税義務者たる大草の意を受けた野木町教育委員会教育長が代わって文書による申請を行っている以上、この点についても違法の問題は生じないし、大草に対する通知が書面でなされなかったからといって、課税免除自体が違法無効になることはあり得ない。
4 以上によれば、被告町長が平成六年度以降の固定資産税について、課税免除をしたことに違法とすべき点はないから、被告町長が賦課及び徴収をしないことについて違法はなく、原告らの平成六年度ないし平成八年度の固定資産税に関する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。
九 よって、原告らの訴えのうち平成五年度の固定資産税に関する違法確認請求及び損害賠償請求部分は、いずれも却下し、原告らのその余の訴えに係る請求をいずれも棄却することとし、行訴法七条、民訴法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官増山宏 裁判官男澤聡子 裁判官宮岡章は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官増山宏)
別紙物件目録一・二<省略>